週刊ポスト2020年10月16・23日号では、「コロナ後うつ」チェックリストを監修した町沢医師による次のコメントを紹介しています。
うつ症状が疑われる場合は、近くの専門クリニックを気軽に訪ねてください。当人に病気を伝え、病院に連れいていくのは難しい問題ですが、その際は「少し疲れているみたいだから、お医者さんに相談してみようか」と優しく声をかけてあげてください。精神科というと抵抗感のある方も多いので、「心療内科」と言ってお連れするのがいいと思います。
今は電話診療ができるクリニックもあります。外来に行かなくても、電話診療だけで薬局で処方箋がもらえます。その上で、家族は日ごろから「会話」することを忘れないようにしましょう。人と話すことがストレス緩和の第一歩です。近くの公園まで一緒に散歩するとか、体を動かすこともいいでしょう。
出典:弁護士ドットコム(写真はイメージです(Graphs / PIXTA)
本来、精神科は「精神症状(気分障害、幻覚、幻聴、摂食障害等)が中心」、心療内科は「身体症状(高血圧、喘息、胃潰瘍、狭心症等)が中心」で違いがあります。しかし、近年、精神科と心療内科の両方を標榜しているクリニックが多くなっています。これは、何を意味するのでしょうか。
この医師は、「精神科は抵抗感がある方も多いので『心療内科』と言ってお連れするのがいいでしょう」と、言っています。「うつ症状」という精神症状であるにもかかわらず、身体症状を専門とする心療内科を勧めているのです。心療内科と言って勧めた方が受診させやすいと、考えたことが見えてきます。
胃潰瘍
クリニック側も、精神科・心療内科の両方を標榜するのはなぜなのでしょう。2018年7月7日配信の厚生労働省の「診療科別現員、必要医師数」によりますと、心療内科医は341.2人、精神科医は10843.6人でした。心療内科医は圧倒的に少ないのです。ですから、精神科・心療内科と標榜しているクリニックは、精神科医が心療内科の領域も診察していることがほとんどなのです。
心療内科の専門性を持たない精神科医が心療内科を併せて標榜するのは、「心療内科」という柔らかいイメージを拝借し、患者を多く受診させようとする意図が見えてきます。
「今は電話診療ができるクリニックもあります。外来に行かなくても、電話診療だけで薬局で処方箋がもらえます」という書き方も誤解を招くと思います。オンライン診療の場合、初診で向精神薬処方はできません。この書き方だと初診でオンライン診察、薬の処方ができると誤解を招くことでしょう。
オンライン診療や電話再診などを用いた心療は原則、初診からの利用は禁止されています。コロナ禍の特例として、厚生労働省が2020年4月10日に都道府県衛生主管部等へ宛てた事務連絡「新型コロナウィルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」で初診時からの利用を臨時で容認しているにすぎません。この条件として、向精神薬の初診時の処方は禁止と明確に定めています。
引用:「ブラック精神医療」米田倫康著 扶桑社新書