サンディエゴで開かれた北米神経科学学会(2010年11月13日~17日)の総会で、幼年期に精神病の薬物治療を受けることが脳の正常な発達をどの程度妨げるかを、動物実験で研究した4件の発表がありました。
「幼児期」あるいは「胎児期」に向精神薬を使用した場合、比較的短期間でも、成熟して大人になったのちの脳の機能に障害が見られたといいます。
ワシントン大学の研究者は、マウスの胎児脳に抗うつ薬のシタロプラム(商品名「セレクサ」)がどのように影響するかを発表しました。胎児発育の過程では、SSAという神経活動が重要な役割を果たしますが、その活動がシタロプラムの胎児への投与によって変わってしまうことを発見し、研究者は「抗うつ薬の投与は胎児の後脳の発達に有害な影響がある可能性を示唆する」と結論づけました。
メリーランド州聖マリアカレッジの研究者による研究では、子どもの雄マウスを生後8日から13日の間、乳を通して抗うつ薬フルオキセチンに被曝させる。
その後は、大人になるまでその子マウスには何もせずにそのままにしておいた。成長後、このマウスは正常なマウスに比べ、はるかにぎこちなかったと研究者だは報告しました。
メリーランド大学とレスブリッジ大学(カナダ)の研究者による2つの関連研究では、オランザピン(ジプレキサ)の幼いマウスへの投与を研究しました。
その研究では、生後28日目から3週の間、オランザピンをマウスに投与しました。成長後、これらのマウスには作業記憶に有意な障害があったとしました。研究者は、「これらのデータは、オランザピンの青年期の投与は、長期の行動欠陥パターンを引き起こすことを示唆する」と結論づけました。
上記の研究は、向精神薬に曝露することが、それがたとえ短期間であっても、永続的な欠陥を引き起こす可能性があることを懸念させています。
そして、「人間でいえば胎児期、あるいは幼児期にあたる段階での向精神薬曝露は、長期の行動機能障害をもたらすことを、ますます多くの動物実験が示すようになってきている」としています。マウスの実験では、向精神薬を投与すればするほど脳には不都合が生じてしまうのです。
このことは、マウスだけの話ではないのです。
「精神科は今日も、やりたい放題」内海聡著 PHP文庫より