薬物性精神病(5/3)

 内海聡医師は、統合失調症について考える時、必ず薬物性精神病について知識を持たねばならないと、著書「精神科や今日も、やりたい放題」で述べています。

 不安などの症状があるものの、幻覚や妄想がない患者さんがいた時、精神科医のパターンとして最初、抗不安薬や抗うつ薬で治療することが多いのです。その時、抗不安薬や抗うつ薬の影響で暴れても、診断が統合失調症になってしまいます。

 また、その精神薬で改善しなかった場合、抗精神病薬(メジャートランキライザー)という薬を処方します。抗精神病薬は基本的にドーパミンというホルモンを抑える薬で、統合失調症はドーパミン過剰になっているという仮説に基づいて薬が開発されています。しかし、ドーパミンが過剰になっていない患者さんに対して、この薬を投与するとどうなるでしょう。

 薬は脳内でレセプターと呼ばれる受け皿に作用し、脳は「ドーパミンが出せなくなったぞ?」という疑問からレセプターを増やしていきます(アップレギュレーション)。もし、急に薬をやめたり減らしたりしたらどうなるでしょう。

 薬の量に対応していた脳の中は、いきなりレセプターを減らすこともできないため、疑似ドーパミン過剰状態になります。そうすると統合失調症と似たような症状を呈してしまうのです。これを過敏性精神病とか薬剤性精神病などと呼びます。この理論も仮説の域を出ていないのが難点ですが、臨床ではこのようなケースはたいへん多いのです。

 つまり、はじめは統合失調症ではなかったのに、薬物(抗精神病薬)によって疑似統合失調症にされてしまったということになります。内海医師が統合失調症として治療を許容する条件として、「薬を飲んでいなまっさらな状態」をまっさきに挙げている理由がここにあります(4/30参照)。私の友人は、はじめうつ病と診断され抗うつ薬と睡眠薬を処方されました。その5年後、幻覚が見えると精神科医に話したら、抗精神病薬を処方されました。うつ病から統合失調症になってしまったのです。

 私は当時、「うつ病と診断されたのにも関わらず、今度は統合失調症に変わってしまった」「うつ病はいったいどこへ行ったのか?」「うつ病、統合失調症と診断名が違うのは脳の状態も違うのでは?」「ということは脳の状態が変わったから診断名が変わったのか?」

 その時の精神科医は、「患者さんが幻覚が見えるといったので、統合失調症の薬を出しました」とそれだけです。脳の状態や薬の説明は一切ありませんでした。ただ、幻覚が見えると言っただけで、抗うつ薬から抗精神病薬に変わったのです。

「精神科は今日も、やりたい放題」内海聡著 PHP文庫より

 

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