科学者の罪と罰〔原子爆弾製造を通して〕(後編)(8/9)

ファット・マン<Wikipedia>より

 今日は長崎に原子爆弾が投下されて、76年目の8月9日です。たった一つの原子爆弾で瞬時に何万人もの人たちが犠牲になりました。戦争や原子爆弾で亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りしております。 

 1945年5月7日、ナチスドイツは無条件降伏をしました。もはや、原爆開発の目的は消えてしまったかと思われました。しかし、日本がまだ降伏していませんでした。そこで、日本への原爆投下が検討されるようになったのです。

  戦争を終わらせる手段として原爆を使用する必要があるか、議論されました。

【必要がある】
①日本の戦争指導者を降伏させるのは難しい。
②多くのアメリカ兵の命が救える。

【必要がない】
①実践で使うのは人道に反する。
②アメリカが国際的な非難を受けることになる。

ロバート・オッペンハイマー
<Wikipedia>より

 オッペンハイマーは、次のような最終報告書を軍に提出しました。「我々は戦争を終結させる手段として、デモンストレーションを提案することはできません。つまり、原爆の直接的軍事使用の他には考えられません。我々が科学者として原子力利用について考える機会を得た数少ない市民であることは間違いありません。しかし、我々には政治的社会的に軍事的問題を解決する能力はありません」こうして1945年7月16日、人類初の核実験が行われました。

人類初の核実験(トリニティ実験)

 核実験の様子を見て、オッペンハイマーは、「うまくいった」とつぶやきました。物理学者のロイ・グラウバーは、「恐ろしかった」「誰も一言も口を聞かなかった」、集会を開いたロバート・ウィルソンは、「ひどいものを作ってしまった」、そして、誰かが、「これで終わった。そして俺たちはみんな、クソッタレだよ!」と、嘆いたのです。


【核兵器保有数】
ロシア:6500、米国:6185、フランス:300、中国:290、英国:200、パキスタン:150~160、インド:130~140、イスラエル:80~90、北朝鮮20~30
:核兵器保有数が増加しているとみられる国

 2019年現在、東西の冷戦を経て、核兵器保有国は左(スマホは上)の9か国で、核兵器保有数は、約14000発となっています。広島、長崎の惨状を世界の人たちは知っているはずです。それにも関らず、核兵器は製造され続けています。核兵器保有国は増えているのです。オッペンハイマーは晩年、日本への原爆投下を後悔していました。アインシュタインも、原爆開発を促す書類に署名したことを終生、後悔しました。開発者や指導者たちは、大勢の人の悲惨な死をリアルに想像することはできないのでしょうか。

ジョセフ・ロートブラット

 その中にあって、1944年冬にロスアラモスを去った開発者の一人であったジョセフ・ロートブラットは、広島、長崎へ投下された原爆の威力にショックを受け、核廃絶運動を開始しました。 1955年、哲学者バートランド・ラッセル卿、物理学者アルバート・アインシュタイン博士、日本の湯川秀樹博士ら著名な学者11人で、核兵器の廃絶を訴える「ラッセル=アインシュタイン宣言」を発表しました。

 1957年には、核兵器と戦争の廃絶をめざす「パグウォッシュ会議」の創設に参加し、会長に就任しました。そして、1995年、同会議とともにノーベル平和賞を受賞したのです。

 オッペンハイマーは、「原爆を完成させ、その恐ろしさを知ることが、世界平和に貢献する」と言いましたが、本当に世界平和に貢献したのでしょうか。一度作ったら使いたくなるのが人間です。事実、それは広島と長崎で使われてしまいました。人間は一度作った物を使わないようにすることは、本当に難しいと思います。人間の理性が攻撃性を上回るようにしていかなければできません。
 人類の歴史から考えると、武器が集団で暮らすための秩序を保つ役割を担ってきた側面もありましたが、それには限度があるのではないでしょうか。使用したら人類が滅亡してしまう可能性のある武器を作ってしまったのは、大きな間違いだったように思います。
 そして、過去の歴史から学ぶことは、多くの人間を危険にさらすのは、ほんの一部の人間だということです。それは、その国の指導者や科学者です。これからもそのような人物が現れないとは限りません。私たちは惑わされることなく、常に現状を見つめ、危険が迫った時に声を上げて阻止していく行動を取る必要があるように思います。
 ジョージ・メイソン大学の歴史学教授であるマーティン・シャーウィンが、「我々人類は、いつの日か、恐ろしい代償を払うことになるでしょう」と言いましたが、絶対に現実にしてはいけないのです。

NHK フランケンシュタインの誘惑「原爆誕生 科学者たちの罪と罰」より

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