ほんの20年ほど前までは、発達障害という言葉はありませんでした。目立つ行動を取る子に対して、男の子は「わんぱく」「いたずらっ子」「ガキ大将」、女の子は「おてんば」という言葉を使っていました。
秋山真之
NHKのドラマ「坂の上の雲」では、主人公の秋山真之(あきやまさねゆき)が子どもの時、子分をたくさん引き連れてケンカをしたり、禁止されていた花火を屋根の上から打ち上げて遊んだりして、親をたいへん困らせるシーンがあります。秋山真之が現代に生きていたらADHDと診断されるかもしれません。
秋山真之の児童期はたいへんなわんぱくだったのです。当時、向精神薬はもちろんありません。向精神薬を飲まなくても、彼は両親(父:久敬、母:貞)と兄の好古に支えられ成長し、日露戦争では参謀となり活躍しました。
ドラマでは、真之が花火を打ち上げたことにより、母の貞が警察官に対して平謝りをしました。また海軍兵学校時代には、陸軍軍人とケンカをして父の久敬が警察で、これまた謝りました。真之は、父や母そして兄に叱られながらも、愛情を受けながら勉学に励みました。
発達障害という言葉が使われる以前も、目立った行動をとる子や無口でたいへんおとなしい子もいました。世界中どこを見回しても、1人として同じ人はいません。同姓同名の人はいますが、人は違うのです。容姿も性格も同じ人はいません。それが「個性」だと思います。
SMAPの歌に、「世界に一つだけの花」という歌があります。
そうさ 僕らは 世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい
小さい花や大きな花
一つとして同じものはないから
NO.1にならなくてもいい
もともと特別なOnly one
ADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム)、LD(学習障害)と診断されると、良くも悪くも診断名が心に刻み込まれます。診断名を前向きにとらえて生活に生かそうとすることができるかもしれません。しかし、心のどこかに「この子は○○なんだ」「人に知られたくない」と、ふとネガティブな考えが浮かんでくる可能性はないでしょうか。また、子どもを無意識のうちに診断名で見てしまうことはないでしょうか。診断名が独り歩きしてしまうようなことはないでしょうか。そこに、新しく不必要な生きづらさが生まれてしまうように思います。
診断名関係なく、この子は、「世界に一つだけの花」と、子どもを一人のかけがえのない存在として、私たち大人はその子の持つ「個性」を大切にし、粘り強く関わっていくことが重要であると考えます。この子は「何を訴えているのだろう」と、子どもとじっくり向き合っていると、自ずから「こうしよう」という考えが生まれてくると思います。人には、真剣に向き合うことにより、解決策が浮かんでくる能力が備わっているのです。