急増する精神科・心療内科(5/5)

 上の表をご覧ください。1990年代末からの「うつ病」患者の背景には、SSRIの登場があり、その販売促進のための「心の風邪」キャンペーンがありました。そして、ほぼ同時期に精神科や心療内科を標榜する診療所が、急激に増えていきました。

 厚生労働省の「医療施設調査」によれば、心療内科を標榜する一般診療所は1996年から2008年にかけて5.7倍の伸び率です。一般病院においても5.0倍の伸び率です。急増するうつ病患者の受け皿は新しくできた心療内科であったことは、容易に想像できます。

 SSRI登場以前の精神科医療機関といえば、精神科病院であり、それはあまり人目のつかない森の中にあるはずでした。それがSSRI登場後は、精神科といえば、クリニックのことを指し、しかもそれが、駅前や都会の一等地に次々と出現するようになったのです。当然患者さんも急増しました。

 また、1996年以降の診療報酬の改定で、診療所の外来診療報酬が病院より高く設定されました。病院の精神科外来よりも、診療所の外来の方が儲かるようになりました。その結果、大規模な精神科専門病院も、病院とは別にメンタルクリニックを作って、外来の患者さんを診るようになり経営の効率化を図るようになったのです。

 SSRIが登場してから特に心療内科が激増しました。それに伴い、うつ病患者も激増しました。ストレス社会といわれるようになって久しくなりますが、不安や気分の浮き沈みを感じる人が増え、製薬会社はそれらの症状を解消するクスリを開発すれば、儲かると考えたのでしょう。「心の風邪」キャンペーンには、私も見事に信じ切ってしまいました。飲めば治るのではなく、飲めば薬漬けになってしまうことがあるのです。

「うつの8割に薬は無意味」井原裕著 朝日新書 より

月ごとの投稿
うつ・不安症状